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Iron Maiden「Book of the Souls」は、ライブで聴くと本当に名盤だったという話

      2017/05/01

ライブ参戦

bookofthesouls

iron maiden”Book of the Souls”

メイデンの公演を見てから大分経ちましたが、こちらに関して思うことがありましたので。

「Trooper」「The Number of the Beast」「Fear of the dark」といった伝説の名曲群はもちろん素晴らしかったんですが、それ以上に、「If Eternity should fail」のサビや「speed of light」のリフや「tears of clown」の合唱部分などといった、昨年発売の新譜「Book of the Souls」収録の楽曲群の印象的なフレーズがやたらと頭の中で回っております。

そう、ライブで気づいてしまったんです。

「あれ、Book of the Souls、かっこいいじゃん」

もちろんアルバムは入手しておりましたし、ライブ前に事前にプレイリストを組んで予習なんぞしていたんですが、「Book of the Souls」収録の楽曲は過去の名曲群と比べてどうにも地味な印象がありました。

しかしライブでのパフォーマンスを見て、むしろ新譜の楽曲群が強烈に刻まれて。
そして、これはバンド側が意図した「仕掛け」によるものなんじゃないか、という仮説がフツフツと沸き起こってきました。

メイデン熱に浮かされて長々と書き立てておりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

地味な印象のライブ風録音への変化

アイアンメイデンといえば、デビュー以来首尾一貫ヘヴィメタルというその音楽性が特徴です。そのあまりの不動さゆえ、「どのアルバムを聴いても金太郎飴」と揶揄されることも。

しかし個人的に、80年代の作品と00年代以降で大きく変わった点があると思っています。
それは、スタジオアルバムのサウンドプロダクションです。80年代の楽曲はコンプの聞いたすっきりした音色で、各パートの分離がよい、いかにも、スタジオレコーディングな音色でした。
特に7thなんかでは顕著かも。

seventhson

Iron Maiden “Seventh Son of a Seventh Son”

一方、2000年代のブルース再合流以降の作品は、ライブ感覚の強い作風にシフトします。演奏もミックスもよく言えば生々しい、悪く言うとラフな仕上がりで、全体的にモコっとしていてパート毎の分離感は薄く、ギターリフは歯切れ感が少なく、ボーカルのピッチは時々「?」と思うようなところもあり。リリースごとにその傾向は強まっている気もします。

bravenewworld

Iron Maiden “Brave New World”

世は音圧至上主義、レコーディングは何度でもやり直せるし、ボーカルはピッチ修正が当たり前。そんな中でラフな仕上がりのメイデンの近年の作品は「スッピン状態」のようなもので、どうにも薄味に聴こえます。「Book of the Souls」に関してもまさにそんな感じで地味な印象をぼくは抱いていたのです。

メイデンほどビックなバンドなら、金に糸目をかけずレコードを作り込むことなど朝飯前のはず。なのになぜ、こんなローファイな作りなのか、ファンながら不思議でしょうがなかったんです。しかし、その答えは実際のメイデンのライブの中にありました。

ライブとレコードの立場逆転

そのメイデンを理解する前段で、現在の音楽シーンに触れさせてください。

ぼくが指摘するまでもないですが、現在CDの売り上げは1998年をピークに年々落ちているそうです。ではその分ダウンロードが増えるか、といえばそんなこともなく、単純に録音物によるビジネスが縮小傾向にあります。(Apple Musicなどのストリーミングはその限りではないようですが)

音楽CD売上推移
引用:http://www.garbagenews.net/archives/2042380.html

かつて、レコードやCDが飛ぶように売れた時代には、録音物を売るためのプロモーション手段としてライブは位置付けることができました。大胆に言い換えれば、レコードされた音源こそがホンモノで、ライブはそれを再現する手段となっていたのではないでしょうか。

一方、現在はライブ・コンサートの市場が好調だそうです。

音楽ライブ市場売上推移
引用:http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/

一概に全てがそうだとはいえませんが、レコードとライブの立ち位置が入れ替わり、プロモーション手段としての録音物、マネタイズするポイントとしてのライブ、という形に急速にシフトしているんじゃないでしょうか。極論、現在は音源はあくまで参考物で、ライブこそがホンモノ、という時勢です。

メイデンの見せた「新しいアウラの作り方」

さて、メイデンの話に戻ります。なぜ、この現在の音楽界の変化に触れたかというと、まさにメイデンの新作が、この「ライブこそがホンモノ」という世相に即した形式になっている、と感じたからです。

前述の通り、メイデンの新譜「Book of the Souls」はライブ感の強い音色で、現代的なレコーディングをされたバンドの音源と比べるとパンチに欠けました。

しかし、です。そんな「Book of the Souls」をライブで聴くと、なんとも力強いカッコよさがありました。録音盤よりも全然。
レコードが薄味ゆえに、ライブの良さが際立つのです。言うなれば、ライブで演奏されて初めて、「Book of the Souls」は完成しました。録音物として作り込み、レコード単体で完成形となっていたビートルズ以来の伝統と比べ、なんとも現代的ではないでしょうか。

ドイツの批評家ウォルター・ベンヤミンによると、「ホンモノ」という概念は、「いま」「ここ」にしかない、という性格によって形作られるそうです。


複製技術時代の芸術 (晶文社クラシックス)

彼はこの「ホンモノ」的性質のことを「アウラ」と呼んでいます。
複製芸術の時代には複製が主となって芸術の持つ「アウラ」は失われ、その価値はどんどん低下していきます。デジタルでいくらでもコンテンツを複製できるようになった現代は、なるほど、確かにコンテンツ自体の価値は(少なくとも経済的な価値は)極小になっているように思えます。

しかし、複製物に主を置かず、あくまで「ホンモノ」を補完する役割として位置付けし直した場合話は変わってきます。

「Book of the Souls」のアルバムは確かにライブ感のある音がパッケージされていますが、そこにはパフォーマンスも舞台演出も、生の音圧感も…ホンモノの「アウラ」を欠いています。言うなればホンモノの断片を見ている感じ、です。

リスナーにとって、複製されたCDアルバムに「アウラ」が足りないというのはある意味自明です。「Book of the Souls」は、そんなリスナーの「アウラ」に対する飢餓感を煽る仕上がりになってるんじゃないでひょうか。だからライブに行きたくなるし、「音」に対して欠けていた「アウラ」がライブで加わった時、まるでパズルのピースがしっかりハマったときのような、完成した感じを味わえたのではないか、と思います。

つまり…?

作品を完成させるのがライブだというのなら、我々はもっとメイデンのライブを見なければなりません。ですので、メイデンさん、もっと来日公演をお願いします。ラウドパークのヘッドライナー、空いてますよ・・・?

…メイデン公演で高まり過ぎでボーカルまわりの話からは逸れましたが、次回以降またボーカル話のレポートを書いていきます。
ではまた。