Rock Vocal Tips

海外ボイトレ情報ほかロック歌唱研究ブログ

「最近の曲はキーが高い」のか?検証してみた

   

ボーカルライフ

「最近の曲はキーが高くて、カラオケで歌いづらい…」なんて言葉、よく聞きませんか?

高い…。

しかしながら、ぼく自身が好んで歌う古のロックやメタルも、飛び抜けたハイトーン曲が多くてですね。

高い…。

そういったことから、「実のところ、昔も今も高いやつは高く、低いやつは低いでそんな変わらんのでは」と前から思っておりました。

今回、その長年の疑問を解消すべく、いくつかデータを収集し、年代ごとに流行った曲の最高音を集計。並べてみたときに、本当に「最近の曲はキーが高い」のか、検証してみました。

検証方法

「最近の曲」:「近年のヒット曲」と設定し、過去のヒット曲と比較

第一興商「DAM CHANNEL」の「あの頃この頃」より、過去48年分(1970~2018年)のヒット曲を取得*1しています(各年ごとに100曲ずつ)
https://www.clubdam.com/dam/anokoro/nendai.html

「キーが高い」:楽曲の最高音(曲中で最も高いノート)を取得し、各年ごとに集計

DAMのサイトには最高音の情報がないので、以下ソースで最高音を探しました。

音域.com

http://www.music-key.com/

音域データ! @ ウィキ ~この曲の最高音はどこ?~ – トップページ

https://www41.atwiki.jp/saikouon_dokoda/pages/1.html

精密集計DX*2

https://clubdam.info/

残念ながら全ての曲で最高音は見つかりませんでしたが、9割ほどは取得できた感じです。各年代の最高音取得数はこちら。

これら全4,548曲を使って集計し年ごとの比較を行い、「最近の曲はキーが高いのか」検証していきます。
なお、集計にあたって「Mid2G」「HiA」みたいな文字情報だと不便なので、上記のサイトから取得した最高音情報をMIDIのノートナンバー(下記参照)に変換して、各代表値を算出しました。
http://www.asahi-net.or.jp/~HB9T-KTD/music/Japan/Research/DTM/freq_map.html
・例:HiA(A4) → 69

また、歌手の性別は最高音に与える影響が大きいと考えられるので、集計は性別ごとに行いました。歌手の性別判定情報は以下のサイトから。うまく拾えなかった歌手は手打ちで入力しました。
http://jpop.ninpou.jp/index.html

検証結果

男声

2000年ごろまで、最高音は上昇傾向(1970年の中央値Mid2F#(F4#)→2000年の中央値HiA(A4))
2000年から現在まで、ほぼ横ばい(2018年の中央値HiA(A4))

女声

2000年ごろまで、最高音は上昇傾向(1970年の中央値HiB(B4)→2000年の中央値HiD(D5))
2000年から現在まで、ほぼ横ばい、またはやや減少傾向(2018年の中央値HiC(C5))

考察

いずれも、2000-2001年ごろまでは確かに「キーが高くなっていて」います。
1970年代−80年代の「歌謡曲」の時代を越え、「J-POP」の発展とともにキーは年々上昇。2000年ごろは、男声ではB’zやラルク、GLAY、女声では宇多田ヒカル、MISIA、浜崎あゆみなど、ハイトーン好きにはおなじみの面々がこぞってヒット曲を出していた年ですが、J-POPのセールス的黄金期のこのころ、最高音もまたピークを迎えていたんですね…!
当時のJ-POP制作陣は、過去の「歌謡曲」との差別化要素を、華やかな高音に見出していたのかもしれません。

一方それ以降はあまり変わらないように見えます。
2000年代からは、「J-POP」っていうものは、最高音を男声であればHiA、女声であればHiC~HiDあたりに設定して制作する、っていうのが一般化してきたのかなあ、という感じでしょうか。少なくともここ数年の曲が10年前よりキーがめちゃ上がったか、と言われると「それはないんじゃないかなあ」というのが結論です。

なぜ「最近の曲はキーが高い」といわれるのか

ぼくとしては上記で結構スッキリしたんですが、「最近の曲はキーが高い」と言われ続けているのもまた事実なわけで。では、なぜ「最近の曲はキーが高い」といわれるのか。いくつか仮説を考えてみました。

仮説1 「最近〜」とは2000年以降のこと

上記の通り、2000年までは年々最高音が上がっていますので、例えば1980年代と2000年代の曲を比べて、「最近の曲は〜」というのは筋が通ります。確かに、おじさん的には2000年代は十分「最近」ですからね…。「最近の曲はキーが高いと思うか」どうかは、おじさん・おばさんかどうかを判定するリトマス紙に使えそう。

仮説2 「最高音」はそれほど変わらないものの、曲中の頻度・長さが増えた

同じ音でも、繰り返し登場したり、ロングトーンになっていたりすると、高さをより感じやすくなるでしょう。

仮説3 高さは変わってないんだけど、曲が難しい

数値はないんですが、メロに音が詰まっていたり、転調が複雑なポップスが増えているような気がします。カラオケで「歌いにくい」と感じるのは、「キーの高さ」が原因なのではなく、実は「楽曲の難しさ」が原因かもしれません。

仮説4 昔の「ヒット曲」と最近「自分が聴いている曲」を比べている

とはいえ、「ボカロ曲にはhihi…の曲が」というように、確かにとんでもないハイトーン曲が近年存在するのも事実です。一方、上記の通り昔のメタルなども気が狂ったようなハイトーンだったりするわけで。この場合、つまり次の図のような感じになってるのかなーと。

よい比較をするには、比較する部分以外の条件はなるだけ揃えるのが定石なので、本来であれば図中のタテ、またはヨコでの比較がよいでしょう(今回の比較はヨコの比較、タテはメジャー曲で固定)。しかし音楽の場合、どうしても自分が聴いている範囲での比較になってしまうため、例えば「小さいころ聴いていたメジャー曲」と「今聴いているサブカル曲」を比べてしまうようなことがあるかなーと。実は変わったのは世の中ではなく自分の方だったのかもしれませんね。

いずれも今回のデータから説明するのは難しいので、今後要調査。

まとめ

よく言われることでも、数字を数えてみると、案外異なった現実が見えてくるものですね。
2018年の中央値が、男声HiA、女声HiCなので、このあたりが歌えれば「最新ヒット曲の概ね半分は歌える」という感じです。
「キーが高いから最近の歌は…」と尻込みしていた方も、これを機に「最近の曲」、覚えてみませんか。

ぼくも「最近の曲は高い」という認知の歪みを乗り越えて、積極的にチャレンジしていきたいと思います。

あ、やっぱこれ無理…。


*1 オリコン(CDセールス)ランキングの曲目、ビルボードHOT100の曲目なども検討しましたが、前者は2010年ごろからアイドル系にハックされていて世の中のヒット曲代表とは言いにくい、後者は2007年以降しかなくそれ以前との比較に使えないため、今回の形としています。

*2 精密集計DXで持っている最高音のデータは、楽曲本来の最高音でなく、カラオケで歌った人の最高音となります。そのため、最高音取得は次の3ステップでちょと工夫しています。①カラオケで歌った人の最高音データを最大上位5名分取得②演奏キーと原曲キーとのズレを補正③5名の最頻値をその曲の最高音として設定